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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)18号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無)

二 本件審決は、本願発明と引用例記載の方法とを比較するに際し、本願発明の技術内容の認定を誤り、ひいて、その対比判断を誤つた違法がある。すなわち、本件審決は、本願発明が、生成硫化銅を溶融状態で得るために、処理温度を生成硫化銅の融点よりも高くして反応させるものであると認め、このことを前提として判断をすすめているが、右認定は、本願発明の内容を誤認したものにほかならない。これを詳説すれば、次のとおりである。

本願明細書によると、本願発明において用いるべき原料は、熔鉱炉から取り出した鉛溶融地金または鉛ドロスであつて、比較的銅含有量が多く、かつ、銅以外に種々の金属(たとえばアンチモン、砒素、亜鉛等)を含有し、したがつて、硫黄と化合して生成する化合物にも種々のものがあることを認めることができるから、前掲当事者間に争いのない本願発明の要旨において、本願発明の処理温度が「イオウと化合して生成する化合物の少くとも一部が液体である温度」と定められていて、硫化銅単体の融点である摂氏一、一二七度よりも高くすべきことを要件とするものではないことを文理上も是認することができるのみならず、本願明細書によると、次の(イ)ないし(ニ)の各記載のあることを認めることができる。

(イ) 本発明方法は、イオウと化合して形成される化合物のほぼ全部が液体であるような温度で行うことが望ましいが、しかし固体ドロスの生成される場合においても、そのドロスは容易に循環して処理し得る。

(ロ) 本発明方法は、カワとスパイスを液相として分離し得る温度で、溶融鉛地金の表面より下方に遊離又は結合イオウを導入して銅を含有する鉛地金を脱銅して銅含有量を減少させる方法として用い得る。

(ハ) 本発明方法は、また、ドロスを摂氏約八五〇度の温度に保持した炉に移してドロスを溶融して溶融状態に保ち、生成した銅含有鉛地金の表面の下方に遊離または結合イオウを導入して、銅を含有する鉛地金溶融物が冷却する時それより分離する低品位のドロスから高品位の銅カワあるいはスパイスを製造する方法としても用い得る。

(ニ) 実施例の説明の記載として、「鉛溶鉱炉から湯出しされた溶融鉛とスラグは湯落しを通つて前炉に入り、表面のスラグ層、スラグ層直下のカワ層および鉛の主層の三層に分離する。」「鉛層の表面下にイオウ注入器を入れる。「これによつて、銅不純物は大部分鉛層から除去され、浮上してカワ層に合体する。鉛地金は、それが前炉に入る初めの熱溶融体の温度とそれが精製される温度との間で脱銅し得るから、鉛地金再加熱の必要はなくなる。」

そこで、前掲本願発明の要旨に以上(イ)いなし(ニ)の各記載を総合して検討すると、本願発明は、鉛溶鉱炉から取り出された銅およびその他の金属を含有する溶融鉛を冷却して行く過程において、硫黄を添加して、溶融鉛中の銅およびその他の金属と硫黄とを反応させ、固体状の硫化銅をその表面下に形成すると、比重の相違によつて、右硫化銅が浮上して表面層上に存在していた溶融状態のカワと合体して、銅分がさらに濃厚となるので、これを取り出して、銅と鉛の混合物を各成分に分離しようとするものであり、したがつて、その処理温度は、当初の溶融鉛よりさらに低くなり、生成する硫化銅の融点より低いものであることは当然であると解するのが相当である。この点について、被告は、生成する硫化物は大部分が硫化銅であるから、生成硫化物がなるべく全部液状で待たれるような温度で処理することが望ましいという以上は、その処理温度は硫化銅の融点より高くなければならない旨主張するが、その理由のないことは、右の認定から明らかであり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

したがつて、本願発明は、生成硫化銅を溶融状態で得るために、処理温度をその融点よりも高くして反応させるものであることを前提として、本願発明と引用例記載の方法との相違点を認定したうえ、生成物を液状で得るためにその生成物の溶融点以上に処理温度を高めることは、冶金操業における常用の手段にすぎず、これによる本願発明の効果も当然予期される範囲内のものであるとして、結局本願発明は引用例記載の方法から容易に推考しうるものと結論した本件審決は、その判断の前提において誤りを犯したため、ひいて判断を誤つたものとせざるをえない。

(むすび)

三 以上の認定のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がある。

よつて、これを認容する。(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

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